ウイルスに対する免疫応答の仕組み(2)

 ウイルス・再生医科学研究所 河本 宏

T細胞はMHC分子と抗原をセットで認識する

さて、この項目では、抗原提示のメカニズムをみていきましょう。T細胞レセプターは、抗原と抗原提示分子をセットで認識します(図1)。抗原提示分子をMHC分子といいます。ヒトの場合は、HLAといいます。

このMHC分子の上に乗っているのはタンパク質の断片で、10個前後のアミノ酸から成ります。こういうタンパク質の短い断片をペプチドといい、T細胞に認識される抗原のことをペプチド抗原といいます。

抗原提示には2種類の様式がある

T細胞に抗原を提示する方法には、大きく分けて2種類あり、異なる種類のMHC分子が働いています。クラスI分子クラスII分子です。クラスワン、クラスツーと読みます。

クラスI分子の上に乗るのは、細胞質内にあるタンパク質が分解されてできたペプチド抗原です(図2左)。普段は自分のタンパク質由来のペプチドを乗せていますが、ウイルスなどが細胞質内に侵入したときに、そのタンパク質由来のペプチドも乗せます。こうして、クラスIはT細胞に「私はこれこれに感染してます」と教えるための分子装置として働くのです。

クラスIは赤血球を除くほぼ全ての細胞が出しています。そういう意味では全ての細胞が抗原提示細胞ということになりますが、あえて「抗原提示細胞」という言葉を使うときは、クラスIIを出している細胞のことを指します。

クラスII分子の上に乗るのは、食作用によって取り込まれた病原体由来のペプチド鎖です(図2右)。病原体由来の蛋白質は食胞の中で分解されてペプチド鎖になり、そこでクラスII分子の上に乗ります。このように、クラスIIはT細胞に「私はこれこれを食べました」と教えるための分子装置として働きます。

原則としてマクロファージ、樹状細胞、B細胞のような食作用をもつ細胞だけがクラスIIを発現します。なお、食細胞は自己の細胞の死骸なども食べるので、クラスIIの上には普段は自己由来のペプチドがのっています。

樹状細胞では貪べた抗原はクラスI分子にも乗る

食細胞の中でも樹状細胞は、取り込まれた抗原をクラスIに乗せる経路も有しています(図2右)。このように「取り込まれた抗原がクラスIに乗ること」を、クロスプレゼンテーションと呼びます。この経路がなぜ必要なのかは後述します。

ヘルパーT細胞は「クラスII+ペプチド」を認識する

さて、ここからは前項で出てきた図にクラスIとクラスII の話を落とし込んでみていきましょう。

食細胞が取り込んだ抗原に対して働くのはヘルパーT細胞です。樹状細胞はウイルスを取り込み、食胞の中で分解します。そうしてできたペプチド抗原がクラスII分子の上に乗せられ、細胞表面に提示されます(図3左上)。これを認識できるヘルパーT細胞は活性化され、働きだします。

B細胞も、まずは食細胞として働きます。自分が出しているB細胞レセプター(抗体分子)で病原体をくっつけて取り込み、分解して、クラスII分子上にペプチド抗原を乗せて提示します(図3左)。同じ抗原で活性化されたヘルパーT細胞と出会うと、ヘルパーT細胞はB細胞上の「クラスII+ペプチド」により再活性化され、お返しにB細胞を活性化します。こうして病原体と結合できる特異的な抗体が産生されるのです。

マクロファージでも、同じようなことが起こります。病原体を貪食したマクロファージは、「クラスII+ペプチド」をヘルパーT細胞に提示し、そのヘルパーT細胞よって活性化されるのです(図3中央)。

キラーT細胞は「クラスI+ペプチド」を認識する

前述のように、キラーT細胞が感染細胞を殺すときは、「クラスI+ペプチド」という形で標的を見分けます(図3右)。では、このキラーT細胞が樹状細胞によって始めに活性化される時のことを考えてみましょう。この時、殺す時と同様に「クラスI+ペプチド」のセットが用いられなければならないはずです。それで、食べた抗原をクラスI分子上に乗せる仕組み、すなわちクロスプレゼンテーションの仕組みが必要になるのです(図3右上)。